充実のワーキングゾーン

戦力として重要な役割を担う中材業務受託者

第1回 川崎幸病院の場合

救急救命の担い手として

SHSの武田理歩さん
SHSの武田理歩さん

社会医療法人財団石心会川崎幸病院は、JR川崎駅西口、徒歩10分ほどに立地する「24時間・365日、断らない救急」を実践する地域の中核病院です。2012年、現在の大宮町に新築移転し、地上11階、川崎市より「重症患者救急対応病院」の指定を受け、61床増床し、現在では326床となっています。新築移転に伴いERの設備を整えて体制も強化しました。また、手術室は4階に7部屋、6階に3部屋、計10部屋あり、昨年実績で、手術件数は、約5,300件です。手術室で使用する器械の洗浄・消毒・滅菌を行っているのが中央材料室(以下、中材)です。


中材業務のアウトソーシング

中央材料室室長 濱松貴浩氏
中央材料室室長 濱松貴浩氏

今回は、中材の濱松貴浩室長と、業務を請け負うサクラヘルスケアサポート株式会社(以下、SHS)の武田理歩さんに、お話を伺いました。2017年以前の川崎幸病院は、中材スタッフが5、6名しかおらず、看護師の助けを借りていました。しかし、手術件数が増え、夜20時以降、消毒・滅菌処理されていない器械が山積みになり、夜勤看護師が寝ずに処理するなど、大変な状況でした。そこで、中材業務に豊富なノウハウを持つSHSに相談し、現在のアウトソーシング態勢を確立したのです。「今では、スムーズな業務を実現することができ、5,300件を超える手術を円滑に支えることができるようになりました」と、濱松室長は言います。


プロとしての「病院責任者」

武田さんは、2013年に、SHSに入社しました。その後、二つの施設で、清掃、洗浄、消毒、滅菌の業務を担当し、2017年10月から川崎幸病院に勤務しています。SHSの中で、もっとも若い「病院責任者」で、第二種滅菌技士の資格も取得しています。川崎幸病院の中材では、12名のSHSのスタッフが働いています。そのスタッフのマネジメントを行っているのが、武田さんです。SHSのスタッフは、洗浄、消毒、滅菌を担当しています。平日の勤務時間は、7:30から22:00で、朝からの早番と、夜勤の2交代制をとっています。勤務シフトは、個々の人によって異なり、短時間のパート勤務の方もいます。とくに女性の場合、ライフステージによって、働き方を選びたいという要望があります。立地が良く、通いやすいので、短時間勤務も可能です。素晴らしい施設である川崎幸病院でも、中材は、人材不足に悩んでいます。時給を高めに設定しても、中材を希望する人が少ないのです。その理由は、中材の知名度の低さと、業務内容自体が分かりにくいことが挙げられます。さらに、手術関連の仕事ということでの抵抗感があるのかもしれません。


中材業務は、重要な仕事

中材の消毒・滅菌業務は、トレーサビリティや、医療安全の面では、たいへん重要な業務です。医療機器が汚染されていたために起こる感染症や、手術中に器具が破損して起こる医療事故などは、患者さんの命に直接かかわります。「当院では病院のトップが、中材の重要性を理解してくれています。私たちが業務効率化のための改善提案をすると、すぐに検討してくれます。そのため、能動的に業務に取り組むことができています」と、濱松室長は言います。中材業務は、清潔な作業着と帽子、そしてマスクを着けて行います。中材の滅菌室には払い出し口があり、そこに消毒・滅菌済みの器械類が置かれ、手術室担当の看護師が取りに来ます。


一目でわかる病室モニター画面

川崎幸病院の中材には大きなモニター画面が、二つあります。一つのモニターには、10の手術室の様子がマルチに映し出されています。赤いランプがついている手術室は手術中です。手術が終わるとピンク色に変わります。また、もう一つのモニターには、スケジュールが表示されています。空いている手術室や、患者さんが入室済みか、現在の工程はどの段階かが、一目でわかります。多くの病院では、手術室の看護師が、手術後、電話で中材に終了を知らせ、清掃、次の手術の準備を依頼します。川崎幸病院では、そのような手配は、ほとんど不要で、手術室の看護師さんのストレスを大幅に減らすことができています。


作業の習得はOJTが基本

今の態勢が始まった2017年10月時点では、ほとんどのスタッフは、洗浄・消毒・滅菌の初心者でした。武田さんは、そのため、一緒に作業をしながら、OJTで業務を教えました。「この病院は、忙しいにもかかわらず、効率的な作業環境が実現しているので、ゆとりがあります。室長をはじめ、病院の職員も優しく教えてくださるので、新人でも作業の習得にあまり時間がかかりません。忙しい時には、新人でもできる作業を、私が一緒に行います。その方が、早く作業を覚えることができるからです。そして、教えたスタッフが、新しく入ってきたスタッフに教えています」と、武田さんは言います。


専門家による充実した研修

SHSでは、教育・研修を重視しています。病院責任者になって1年未満の社員に対して、長野にある教育センターで研修を行います。グループ会社のサクラ精機株式会社は、医療用洗浄・滅菌装置のトップメーカーです。武田さんが受けた病院責任者研修は、2日半のスケジュールでした。講師は、サクラ精機の滅菌のプロです。理論だけではなく、実機を用いての具体的な説明は、高い学習効果を生みます。現場で経験した疑問など、多くの質問が出て、活発な研修会だったそうです。中材の仕事は、やりがいのある、責任感と誇りを持てる仕事です。次々に開発・提供されるデバイスの数は多く、ゴールのない、継続的な学習が必要です。まさに、医療の進歩とともに歩むことができる職場なのです。川崎幸病院の中材で働くスタッフの生き生きとした姿が、印象的でした。

中央材料室
中央材料室

鋼製小物の滅菌
鋼製小物の滅菌




4年制大学文科系学部を卒業して、一生の仕事として中材業務に従事する

第2回 東京都立駒込病院の場合

高度な診療機能を備えた「がん・感染症センター」として

左から、SHSの楢原京子さん(病院責任者)、藤倉佳穂さん、山田梨奈さん
左から、
SHSの楢原京子さん(病院責任者)、藤倉佳穂さん、山田梨奈さん

東京都立駒込病院(以下、駒込病院)は、1879年、主に感染症(伝染病)を診療する病院として開設されました。そして、1975年に、がんと感染症の高度専門病院に生まれ変わりました。その後、2009年から建物の全面改修に着手し、2011年に工事を終え、「がん・感染症センター都立駒込病院」として、生まれ変わりました。病床数は815床(一般785床、感染症30床)です。駒込病院の特色は、PFI法(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律)に基づき、RO方式(Rehabilitate-Operate)により運営されていることです。具体的には、病院経営及び診療業務(医師、看護師等の業務)については東京都が直営で実施しますが、PFI事業者が病院施設を改修することで病院機能を向上させるとともに、2009年4月から17年間にわたる維持管理・運営業務を行います。病院運営を継続しながら改修工事を行う日本初の病院PFI事業です。今回は、東京都立駒込病院感染対策室看護師長の渡辺多美様と、サクラヘルスケアサポート株式会社(以下、SHS)の病院責任者である楢原京子さん、中材で働く4年制大学を卒業して2年目と3年目の山田梨奈さんと藤倉佳穂さんにお話を伺いました。なお、SHSの野島久美子社長にも同席いただきました。


すべての中材業務を外部委託

都立駒込病院感染対策室看護師長 渡辺多美様
都立駒込病院感染対策室看護師長 渡辺多美様

駒込病院の中材業務は、すべてSHSに委託しています。25名のスタッフが、2交代制で働いています。SHSに委託する前は、手術室は9室で、手術件数も5,000件弱でした。手術時間が遅くなると、夜遅くまで手術室の看護師が洗浄・滅菌をしていました。2011年リニューアル後は、手術室が15室に増え、 手術件数も約6,000件になりました。手術件数の増加や開腹手術以外に、低侵襲の内視鏡手術やロボット支援手術が増え、手術室看護師が洗浄・滅菌を行えない状況になりました。ロボット支援手術は3つの診療科(泌尿器外科、大腸外科、胃外科)で毎日行っています。ロボット支援手術の場合、術後の器材の洗浄・滅菌について、詳細に手順が決められているため、メーカーからレクチャーを受けます。術後の洗浄時間は2時間ほどかかり、ロボット支援手術器材を洗浄・滅菌するスタッフは、SHSでは専門のスタッフが当たっています。医療機器、医療材料も特殊なものが多く、「この数年で、中材業務は、特殊性、専門性が高まったと感じています」と、渡辺師長は言います。渡辺師長によれば、「委託するにあたって、医療器具の数量は、どれくらいあればよいか、数量を再検討しました。また、ロボット支援手術や内視鏡手術では、管腔が長いものがあり、洗浄・滅菌方法が細かくメーカーから指定されているので、看護師が対応することは難しいと感じました。より専門性の高いSHSさんに委託することで、本当に助かっています」と言います。


4年制大学を卒業して

二人のSHSの若手スタッフにお話を聞きました。山田さんは、「私は4年制大学の法学部を卒業しました。母がケアマネージャーをしていたので、医療・介護分野は身近に感じていました。医療を支える立場で働くことができればと思って、SHSに入社しました。実際にやってみると、覚えなければならないことが多く、毎日が学びの日々です」と言います。藤倉さんは、「大学に進学した時に、大好きな祖父が脳梗塞になりました。その時、看護師さんが手厚く看護する姿を見て、医療関係の仕事がしたいと思いました。しかし、入学したのが、経済系大学なので、看護職への道はありません。就活の時にこの職種を見つけ、入社させていただきました」と言います。野島社長は言います。「SHSの会社説明会に来た学生に施設見学会の後アンケートを取ったところ、『社会に貢献できる仕事』という欄にチェックが入っていました。今の若い人は、『社会貢献』や、『自己実現』をキーワードに仕事を選ぶ人がおり、洗浄・滅菌の仕事はそれに応える仕事であると言えます。」


グループ全体で研修を実施

SHSは医療の感染防止に貢献するサクラ精機グループの中の1社です。サクラグループでは、グループ各社のすべての新人に対して、統一研修を行っています。新人研修は、約1カ月、長野の研修センターや受託施設でも行われます。 楢原さんは、「中材の25名のスタッフの中で、この二人は、最も若く、自分の子どもたちと同世代です。私は契約社員から始めて、長い間、中材業務を経験してきました。この仕事には、マニュアル通りにいかないことが山ほどあるので、私の経験をすべて教えたいと思っています」と言います。野島社長は、「この仕事の面白みは、医療機器も進歩しますし、技術も発展するので、終わりがない仕事だということです。ある意味では、医療の最前線で働いているといえます。医療の進歩と発展とともに成長したいと思う人にとっては、やりがいのある職場です」と言います。


生きがいを感じる職場

山田さんは「私は2年目ですが、後輩にこの仕事を勧めるかというと、覚えることが多い職場なので、それが苦にならない人であれば良いと思います。そして、細かいところまで注意する必要があるので、注意力が散漫な人は、厳しいと思います」と言います。藤倉さんは、「どのような仕事でも責任は伴います。今の仕事は、直接、人の命にかかわる仕事なので、その意味では、責任感が一番求められます。そのような責任感がある人や、医療に携わっていきたいと考えている人には、天職になると思います」と言います。山田さんは「覚えることの多さの例としては、手術室のセットの中の鉗子一つでも、少しずつ違う種類の鉗子がたくさんあります。この病院では、これらを識別するシステムが導入されており刻印されたUDIを読み込めば、名前が出てきます。新人にとってはありがたいシステムです」と、言います。病院の中で、医療機器にかかわる人たちの仕事は大切です。医療機器の種類は多く、新製品の開発スピードは速い。そのような環境の中で仕事をすることに生きがいを感じている人が、この駒込病院の中材にはいます。それが、SHSのスタッフたちです。

UDI識別システム
UDI識別システム

洗浄装置
洗浄装置