ごあいさつ

“社員の成長が、会社の成長”

野島久美子社長





サクラヘルスケアサポート株式会社
代表取締役社長
野島 久美子


 サクラグループとともに成長してきた

ーー御社のサクラグループでの位置づけからお聞きしたいと思います。

野島:サクラグループには、大きく分けて2つの事業グループがあります。一つが、「医療の感染防止に貢献する」サクラ精機グループで、もう一つは、「がん診断の迅速化、効率化」を図るサクラファインテックグループです。サクラヘルスケサポート株式会社(以下、SHS)は、サクラ精機グループの一つで、医療関連サービスのうち主に院内滅菌消毒業務を受託しています。創業は、2008年です(図1)。

サクラグループの事業
図1 サクラグループの事業

ーーサクラ精機は古い歴史のある会社ですね。

野島: サクラ精機株式会社は、鰯屋松本市左衛門店が医療器械の販売を専門部門として独立させた1871年が創業年となります。サクラグループのロゴは桜ですが、1907年に商標登録しているのです。先人が、桜という国の花をロゴにしたことはすごいことです(図2)。私は、1983 年にサクラ精機に入社しました。

サクラロゴ
図2 サクラロゴ

ーーサクラ精機に入社されて部署はどちらだったのですか。

野島: 入社当時は血液像自動分類装置という臨床検査装置の部門に配属されました。医療系短大で臨床検査技師の資格を取得していたので、今でいうところの、アプリケーションスペシャリストの仕事に就きました。

ーーアプリケーションスペシャリストというのは、どういう仕事でしょうか。

野島: 従来、人手で行っていた仕事を、検査機器により自動化する際に従来法との相関をとったり、機器の使用方法をスタッフに説明したり、血液像の標本の作り方をアドバイスしながら、トレーニングするなどの仕事です。その後、商品開発やマーケティングの勉強をさせてもらい、実務についています。

ーー入社された1983年当時ですと、臨床検査技師資格を持っていれば、病院に就職される方が多かったのではないですか。

野島: はい、病院か、検査センター、もしくは製薬会社の研究所に就職する人が多かったと思います。そういう意味では、私は少し変わっていました(笑)。当時通っていた学校の教授とサクラ精機の役員とのつながりの縁で入社することとなりました。いまでこそ、アプリケーションスペシャリストとして臨床検査技師の方も活躍されていますが、当時は、ほとんどいなかったのではないかと思います。

ーーサクラ精機はもちろん、野島社長ご自身も、先見の明があったのですね。

野島: 私自身はそういった自覚はありませんでしたが、いろいろな部署を経験してきて、ずっと、サクラグループの中で育ててもらったと言えます。

ーー同じ会社で、キャリアを積まれて来たということは、素晴らしいことだと思います。

 人生をステージで分ける

野島: 私は、SHSの社長になって、なにをしたいかというと、私が経験したこと、教えてもらい育成してもらったように、SHSの社員にもそういったプラットフォームを用意したいということです。

ーーSHSには、圧倒的に女性のスタッフが多いですね。

野島: 私には二人の子供がおります。会社の育児休暇をとり、子育てをしながら、仕事を続けてきました。続けてこられたことに感謝していますし、若い社員にもぜひそのようなライフスタイルが選択できるようにしていきたいと思っています。

ーー良い会社・職場環境なのですね。

野島: 育児休暇中は、公園デビューというのですか、子供を通じてママ友ができます。そのお母さんに、「私は育児休暇が終わるので、来週から職場に復帰するんですよ」と伝えたら、「友達と遊べなくなるから、○○ちゃんがかわいそうね」と言われました。ハッとしました。自分は母親としてどうなんだろう、と考えてしまいました。

ーー小さい子供を置いて、働きに行くことへの後ろめたさですか。

野島: ところが、子供が5、6 年生になったころ、同じママ友が、「野島さんは、働きがいがあるしっかりした仕事を持っていてうらやましいわ」と 言うんです(笑)。人生一生の中には、いろいろな時期、ステージがあると思います。ある時期は、子供や家族のための時間を大切にして、ある時期は、仕事に集中するというのも良いのではないでしょうか。

ーーお二人お子さんがいると、育児休暇も結構長くとられたのですか。

野島: 長男が生まれたときには、職場の事情があり、今でいうリモートワークをしていました。通信手段は、電話とファックスでしたが…。

ーーまさに先駆的ですね。

野島: 今は、女性だけでなく、男性も子育てに参加しています。また、年齢が上がっていくと、ご両親の面倒をみたいという人も出てきます。男性、女性を問わず、仕事と生活のニーズは多様になってきており、それに応えられることが大切だと思います。

 自分を高めたい人に向く洗浄・滅菌の仕事

ーー洗浄・滅菌の仕事はどうでしょうか。

野島: 洗浄・滅菌の仕事は門戸が広く、未経験の人でも入ってくることができます。パートで限られた時間働くことも可能です。また、子供から手が離れたときには、母親であっても、もっと勉強したいとか、キャリアを積みたいという人にとっては、終わりがない仕事です。医療は、技術進歩も早く、学ぶべきことがいっぱいありますから。

ーー滅菌技士(技師)試験は、一種、二種とあり、難関ですよね。

野島: 洗浄・滅菌の分野を極めたい、自身の力を高めたいという人には良い仕事です。その気持ちをバックアップできる会社にしたいと思っています。

ーー極めたい、高めたいと思っている人をサポートするということは、素晴らしいことですね。

 豊富なサクラグループの教育資源

野島: 現在、SHSではサクラグループが持っている教育資源を活用させてもらっています。 長野県にあるサクラ精機教育センターでは、SHS向けの研修プログラムを用意してもらい、病院責任者になる前のスタッフ研修を受講することができます。この教育センターは、42年の歴史があり、JICAの指定も受け、幅広く世界から研修を受け入れている施設です(図3)。

サクラ精機 教育センター
図3 サクラ精機 教育センター

ーー現場の病院で働くスタッフには、どのように教育をしているのですか。

野島: 基本は施設社員によるOJTを行っています。また、サクラ精機の学術部の方に講師として、受託施設に来ていただき、スタッフ研修を行っています。

ーー教育センターに来ることができる人は、選ばれた人なんですね。

野島: 現場で経験を積んで、病院責任者になる人が対象です。スタッフには、現場で講師が教えます。パートの方もいますが、皆さん全員に研修を受けてもらっています。

ーーパートから、正社員になる方もおられますか。

野島: はい、おります。契約社員になって、正社員になり、さらに、病院責任者やその上の管理職になっている人もいます。そのような人は、ロールモデルとして、若い人の目標となっています。

ーーグループ全体の研修もあるようですね。

野島: 新入社員には各社に配属される前に、サクラグループ全体の研修があります。すべてのグループ会社の新入社員が一堂に会して、社会人としての基本マナーなどを学びます。

ーー各社に配属されてからも同期ということで、つながりますね。

野島: サクラグループでは、新入社員のつながりや協働で行う教育機会を重視しています。新入社員の研修は、入社後も、2年目、3年目と継続して行われています。受託会社には、いろいろな会社がありますが、サクラグループで働きたいと思ってもらうことが大事だと思います。

ーーそれが、ある意味ではブランド力かもしれませんね。

 コミュニケーションツールとしての社内SNSの活用

ーー社員同士のコミュニケーションも大切でしょうね。

野島: 働いている場所が各施設に分散していますので、社員間のコミュニケーションを図るために、社員だけが利用できるSNSを取り入れています。これには、「みんなの質問相談広場」というコーナーがあり、気軽に「こんな場合は、どうすれば良いでしょうか?」と質問ができます。すると、離れたところにいる仲間や先輩社員から、「こうしてみてはどうでしょう」というアドバイスがすぐ届きます。現場を知る者同士、安心して具体的なことが聞けるということで好評です。

ーー社員間だけで答えが出ない質問もあるのではないですか。

野島: そのような場合は、サクラ精機の学術部の方にアドバイスを受けることができます(図4)。

社内 SNSシステム
図4 社内 SNSシステム

 受け身にならず、積極的に提案する

ーー今後の社長としての抱負をお聞かせください。

野島: 大げさに言えば、“カルチャーチェンジ”です。企業文化を変えていきたいと思っています。

ーーそれはどういう意味でしょうか。

野島: 私たちの仕事は、受託なので、どうしても受け身になりがちです。洗浄・滅菌の仕事は、病院内でもよくご存知の方は多くはおられません。その点、私たちはプロですから、こちらからご提案させていただこうと考えています。

ーーなかなか難しそうですね。

野島: 複数の施設で仕事をさせてもらっているのでわかることですが、どの施設でも従来の仕事のやり方が、必ずしもベストではありません。「この点を、こうしてはどうでしょうか?」というご提案はできると思っています。

ーー淡々と仕事をこなすだけでは、いけないということですね。

野島: 提案することで、病院からの信頼を得ることができます。今後の病院経営は厳しくなっていくでしょう。そう考えると、コストセーブというより、生産性を上げることが重要だと思います。

ーー具体的にはどんな提案が考えられますか。

野島: 例えば、器材管理システムです。 システムを販売している会社は、システムの導入をして仕事が完結します。 しかし、実際に導入したシステムを病院内で効果的に運用する人材がいなければ、本来考えられていた目標は達成できません。また、診療材料の払い出しと実際に使用した数量とのギャップの把握等にも、改善の余地があると思います。

 世代を乗り越えた協同作業

ーー提案型の企業になることが、目標ということですね。

野島: 目標達成のためにマインドを変えるということと、もう一つはデジタル技術の活用を考えています。 社内SNSのほかに、AIを用いた勤務シフト表の自動作成システムを導入します。

ーースタッフのシフト表については、どこの施設でも悩んでおられますね。

野島: シフト表は、働く人の満足度に大きく影響します。看護師の勤務表自動作成ソフトを応用したシステムの導入準備を進めています。スタッフみんなの希望を聞くことは良いのですが、実際にシフト表を作成する病院責任者の負担が増えてしまいます。公平性を重視し、不満が出ないように自動的に作成することで問題が解決すると思っています(図5)。

AIシフト表自動作成ソフト画面
図5 AIシフト表自動作成ソフト画面

ーーSNSやAIというと、若い人は良いでしょうが、年配のスタッフの方はいかがですか。

野島: SHSの社員の年齢層には、20歳、30歳代と40歳、50歳代の二つの山があります。ある意味、洗浄・滅菌の仕事は職人の世界なので、ベテランがえらくて、若い者は下、というところがあったと思います。ところが、デジタル技術の導入を始めると、むしろ若い人たちにそういった分野の知識や経験は多く、どの年代にも活躍する場が生まれてきています。

ーー年代の異なるスタッフが、そのような形で交流できるというのは良いですね。

野島: 弊社が導入しているSNSのシステムは、チェーン病院や、同一健保の組織間、それに介護施設のチェーンなど、離れたところで働いている人同士のコミュニケーションツールとして導入例も増えているようです。また、最近はMicrosoft Teamsも、頻度高く活用しています。すべての病院責任者に対して、リモートで顔を見ながら朝礼を行うなど、これまで実現できなかったことが可能になりました。

ーーコロナ禍で、テレワークの普及が急速ですね。

野島: 社内のプロジェクト活動のハードルもだいぶ低くなりました。集まるとなると出張費もかかりますし、 何よりシフトを調整しなければならないなど、活動への社員参加に制約がありました。 テレワークは、その点、制約が少なく、社外の人とのミーティングも含めて活用しています。

ーー災い転じて、福になれば良いですね。ところで、業績はいかがですか。

 SHS独自のカラーを出したい

野島: しばらくは、まだまだ厳しい状態が続くと思います。その中で、受託会社のトップグループの企業とは異なるカラーを出していきたいと思っています。

ーーどのようなカラーを出そうとされているのですか。

野島: SHSが同業他社と異なる点は、サクラグループの中の受託会社であるという点です。洗浄滅菌装置の設計開発製造のサクラ精機をはじめ、機器のメンテナンス会社、器材管理システムなどの専門企業から成る企業グループの一員です。そのような受託企業はSHSだけです。ナンバーワンというより、オンリーワンを目指したいと思います。

ーー特色を生かして、ということですか。

野島: そして、SHSとして病院経営に貢献できることは、まだまだいっぱいあると思っています。

 女性の特性を生かす

ーー現在の医療、病院について、どのような改革が必要だとお考えですか。

野島: まだ、この分野に入ってきて日が浅い私ですから、えらそうなことは言えません。ただ、病院も企業も、細かい部分でシステムを開発したり、ある病院にしか通用しないシステムを作ったりしています。一気通貫というのでしょうか、診療報酬制度は全国一律ですし、一つプラットフォームを作って、みんなで共有するようなことができないのか、考えています。オーダーメイドの洋服は、既製より高くなりますよね。

ーー中央材料部で言えばどうでしょうか。

野島: 中材の場合でも同じことが言えます。個々の病院のやり方に合わせようとすれば、コストがかかります。私が入社以来働いていたサクラファインテックジャパン(SFJ)では、いつも、サクラファインテックUSA(SFA)と、サクラファインテックヨーロッパ(SFE)の3極で話し合って、物事を決めていました。日本の常識が、世界の常識ではないことを学びました。

ーーまったくおっしゃる通りですね。

野島: 今回の新型コロナウイルス禍をチャンスに変えたいと思っています。 変化には、女性の方が、適応する力は高いのではないかと思います。例えば、子育て中の母親は、子供がニンジンを食べないというと、丸々のニンジンを目の前に置くのではなく、すりおろして食べさせるようなことをしますね。

ーー御社は女性比率が高い会社ですね。

野島: 約8割が女性です。その社員、スタッフの力を信じて、改革もしていきたいですね。

 社員は、洗浄・滅菌のプロとして成長する

ーー御社にとっての基本を教えてください。

野島: “社員の成長が、会社の成長です”と、ずっと言い続けています。一人一人が成長することが大事です。個々の社員にとっては、収入も増えるでしょうし、知識が増え、自己実現にもなる。そういう社員を通して、標準化された質の高いサービスを提供することが、SHSの目標です。

ーー洗浄・滅菌の仕事は、門戸も広く、奥も深い分野ですね。

野島: SHSに来た時の社員面談で気づいたことがありました。仕事で辛い時、途中で心が折れてしまう人と、我慢することができて、輝いて仕事を続けている人がいます。何が違うかというと、日々洗浄・滅菌している器材の向こう側に、患者さんとその家族の顔が見えているかどうかの違いです。見えている人は、少々困難にぶつかっても、やりがいを持って仕事を続けることができます。

ーー器材には、感情がありませんものね。

野島: 受託施設によっては、スタッフ教育のためにオペ室を見学させてくれるところがあります。オペ室で自分たちが洗浄・滅菌している器材がどのように使われるのかを見て、どうすべきかを考えるようになります。例えば、麻酔に使用するチューブなどは、水が残っているといけないことがわかり、洗浄・滅菌時に十分に水分を取り除くように注意するようになります。

ーーそういう人材が誕生するのですね。

野島: ある病院で、病院責任者をしていたNさんは、契約社員を経て現在の地位になりました。Nさんは勉強家で、洗浄・滅菌について、とにかく詳しい。「私たちはこのような方法でやっています」と病院側に、バシッということができます。今は、病院責任者のさらに上のマネジメントの仕事に就いています。

ーーそのような人を見て、スタッフは成長するのでしょうね。

野島: 社内SNSでは、そういう人が実際に見えるようになってきました。近くにいる人ではなく、異なる施設の人の姿も見ることができます。

ーーわからないことはすぐGoogleで調べる人が多いですね。その点、社内SNSでは、同じ仕事をしている先輩や仲間からアドバイスをもらえるということは、貴重ですね。

野島: 私たちの仕事は、医療現場に直結する仕事ですので、即時性が求められる場面が多々あります。パソコンの前に座ってあれこれ調べるよりも、社内SNSで現実に即したアドバイスを得られるメリットはとても大きいです。

ーー離れた場所にいる仲間から得られる経験知が、全社で活用されていくのですね。

野島: 私たちの仕事には、ライフステージに合った、様々な選択肢があります。生涯をかけて、突き詰めることができる分野であり、奥深さがあります。 グループ内とはいえ、ある意味では違う業界から来て、私は2年ほどです。生意気なことを言ってと、言われそうですが、外から見たものとして、これからも提案し続け、改革を進めていきたいと思っています。

ーー本日は、お忙しいところ、貴重なお話をいただき、感謝申し上げます。ありがとうございました。

イザイ第37号(2020年7月発行)より転載